大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成3年(ワ)6028号 判決

東京都台東区浅草橋三丁目二〇番一八号

原告

ピープル株式会社

右代表者代表取締役

桐渕真一郎

右訴訟代理人弁護士

秋山洋

石井禎

佐谷道浩

大阪市阿倍野区天王寺町北三丁目一二番一号

被告

山岡金属工業株式会社

右代表者代表取締役

山岡廣

右訴訟代理人弁護士

高野裕士

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、別紙第三目録及び第四目録記載の商品を製造、販売、頒布してはならない。

2  被告は、別紙第三目録及び第四目録記載の商品、右商品の半製品並びに右商品の宣伝広告用パンフレット類及び取扱説明書を廃棄せよ。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五二年一〇月一日に設立された株式会社であり、玩具・室内遊戯具の製造販売及び幼児向け書籍の出版等を業としている。

2  原告は、昭和五七年七月から、別紙第一目録記載の室内用ジャングルジム(商品名「わんぱくジム」、以下この商品名で呼び、図面一の1「三段スタンダード」をA号品、同2「四段デラックス」をB号品、同3「スーパーDX」をC号品と呼ぶ。)を、平成二年八月から、別紙第二目録記載のすべり台付き室内用ジャングルジム(商品名「おすべりジム」、以下この商品名で呼ぶ。)をそれぞれ製造販売している(以下両者を併せて「原告商品」という。)。

3(一)  わんぱくジムは、別紙第一目録記載のとおり、合成樹脂被膜及び着色を施した紙管と合成樹脂ジョイントからなる室内用ジャングルジムであり、その基本的形状は、美観を考慮して、上から見て十文字型、横から見て階段状になっている。

(二)  おすべりジムは、別紙第二目録記載のとおり、ジャングルジム本体部分であるわんぱくジムに、プロー成型によるすべり台を取り付けた複合商品である。

4  わんぱぐジムは、その独創性及び強力な広告宣伝活動により、次のとおり、発売開始から短期間のうちに、前項(一)記載の商品形態で原告の商品であることを示す表示として日本国内の消費者、問屋等の需要者の間で周知性を獲得した。また、おすべりジムは、ジャングルジム本体部分であるわんぱくジムの周知性に加え、後記(二)、(三)の広告宣伝活動により、発売後間もなく前項(一)(二)の商品形態自体で原告の商品であることを示す表示として周知性を獲得した。

(一) 原告がわんぱくジムの製造販売を開始した昭和五七年当時、室内用ジャングルジムは、日本においても世界においても未だ市販されていなかった。原告は、独自の創意工夫により初めて室内用ジャングルジムの商品化に成功し、昭和五七年七月に三段組のA号品を、同年一一月に四段組のB号品を発売した。原告は、それ以来、現在まで一貫して同一のデザインで原告商品を製造販売してきたものであり、ごく最近に至って後発業者が参入するまでは、原告商品が唯一の室内用ジャングルジム商品であった。

(二) 原告は、昭和五七年以降、別紙「わんぱくジムに要した広告宣伝費」記載のとおり多額の広告費を投下し、主たる購買層である若い母親等に広告のターゲットを絞って、テレビCM・雑誌広告を中心とする強力な広告宣伝活動を展開しており(平成元年から平成三年までの実績は別紙1・2のとおりである。)、その際、月単位でテレビCMの放映回数や雑誌広告の出稿量を調節するなどきめ細かな配慮を払っている。

原告は、これらの媒体以外にも、おもちゃショーへの出品やクリスマスシーズンにおける投げ込み広告により大きな広告宣伝効果を上げており、原告に返送された愛用者カードを分析した結果、原告商品の購入者は、いわゆる「指名買い」(購入に当たり、原告のジャングルジムを名指しすること)によるものが七〇パーセントを占めることが判明している。

(三) 原告商品は、年間約一三万台を売り上げ、室内用ジャングルジム市場で七五パーセントのマーケットシェアを占めている。また、原告商品は、実際上、原告商品を扱いうる店のほとんどである全国約一五〇店の取引問屋及び約四〇〇〇店の小売店で取り扱われており、こうした店舗での陳列を通じてもその商品形態が商品表示性及び周知性を取得している。

5  被告は、平成三年六月ころから、別紙第三目録記載の室内用ジャングルジム(商品名「カラージャングル」、以下この商品名で呼ぶ。)及び別紙第四目録記載のすべり台付き室内用ジャングルジム(商品名「優遊ジャングル」、以下この商品名で呼ぶ。)を製造、販売、頒布している(以下両者を併せて「被告商品」という。)。

6(一)  被告商品は、次のとおり、形状、素材、大きさ等の基本的構造、外観において原告商品と同一であり、原告商品と類似する。

(1) 原告商品と被告商品は、ともに上から見ると十文字型、横から見ると階段状という基本的形状を有するジャングルジム、又は、かかるジャングルジム本体部分にすべり台を組み合わせた複合商品であり、ジャングルジム本体の形状、大きさ、すべり台のジャングルジム本体への取付位置、斜度、商品全体に占めるすべり台部分の比率等の全体的態様が全く同一である。

(2) 原告商品と被告商品は、ともに表面に合成樹脂被膜及び着色を施された紙管と合成樹脂ジョイントの組み合わせからなるジャングルジム、又は、それにブロー成型によるすべり台を組み合わせた複合商品であり、素材において全く同一である。

(3) 原告商品と被告商品は、ジャングルジム部分を構成する紙管の太さが全く同一(外径三一ミリメートル、内径二五ミリメートル)であり、紙管の長さについては、原告商品が二八〇ミリメートル、被告商品が三〇〇ミリメートルと二〇ミリメートルの差があるが、組立後の商品の大きさはほとんど同一であり、商品のラインナップも三段組、四段組、デラックス(被告商品ではジャンボという。)の三種類からなっている点で全く同一である。

(二)  被告は、紙管及び合成樹脂ジョイントの色、合成樹脂ジョイントの形状、商品に付された装飾及び商品自体の大きさに差異があるから、被告商品は原告商品に類似しない旨主張するが、類似性の有無の判断は、商品の形態の形式的対比のみではなく、通常の需要者の客観的注意力に基づく出所混同のおそれを基準としてなされるべきであり、また部分的な比較対照ではなく外観を全体的に観察することによりはじめて可能となるものである。

この点、商品の色は、それが特に個性的なものであったり、特定の対象物のイメージカラーとして定着しているような場合を除き、需要者の知覚上必ずしも本質的なものではない。また、合成樹脂ジョイントの形状の違いは極めて部分的な微細な違いに過ぎない。なお、紙管の大きさについては前記のとおりであり、それ故組み立てられた原告商品と被告商品との間に、その大きさにおいて実質的な差異はない。さらに、商品の形態の類似性は、商品の枢要部、すなわちジャングルジムの基本的構造及び材質並びにすべり台部分の構造及び材質の対象により判断されるべきであり、被告商品に屋根を付けるなどの装飾が施されていることは、本件において類似性を否定する根拠とはならない。

結局、紙管及び樹脂という素材の同一性から生じる全体の質感その他のイメージの同一性及び紙管と樹脂ジョイントの組み合わせ方から見た商品全体の形状の同一性に照らして、原告商品と被告商品とは極めて類似しているということができる。

(三)  室内用ジャングルジムは児童用玩具であり、その需要者は、若い母親や祖父母といった一般消費者であるところ、これらの一般消費者は、商品に付された色彩、装飾などの細部を記憶に留めることなく、ジャングルジム本体部分の形状や本体とすべり台との結合方法などのように、テレビCM・雑誌広告に現れたり、店舗で陳列された商品の全体的な構造を記憶認識し、それに着目して購入商品を決定する傾向にあり、実際の購入過程も、テレビや雑誌等で原告商品の存在及び形態を知った消費者が店舗に出向いてこれを買い求めるというものである。

かかる観点から見て、被告が原告商品と基本的形態を全く同じくする被告商品を販売することは、需要者に対し、あたかも被告商品が原告商品であるかのような出所の誤認混同を招くことになる。

7  原告商品と被告商品は、ともに全国規模で販売されており、使用目的及び需要者の範囲を全く同一にする競合商品であるから、両者が誤認混同されることによって原告の営業上の利益が著しく害されるおそれがあり、被告の被告商品の製造、販売、頒布行為は、不正競争防止法一条一項一号に該当する。

8  被告商品及びその半製品は、被告による商品表示の混同行為を組成した物であり、右商品の宣伝広告用パンフレット類及び取扱説明書は、被告による右混同行為の用に供した物である。したがって、被告の右混同行為を防止するには、単に被告商品の製造、販売、頒布を禁止するに止まらず、これらの物を廃棄させる必要がある。

9  よって、原告は、被告に対し、不正競争防止法一条一項一号に基づき、被告商品の製造、販売、頒布の禁止と、右商品、右商品の半製品並びに右商品の宣伝広告用パンフレット類及び取扱説明書の廃棄を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし4はいずれも争う。

2  同5は認める。

3  同6ないし8はいずれも争う。

三  被告の主張

1  商品表示機能・周知性について

原告商品は、「わんぱくジム」及び「おすべりジム」という商品名又は商品名を明記した包装によって他社商品と識別されているものであり、室内用ジャングルジムとしての基本的形態自体が周知性を獲得し、原告商品であることの出所表示の機能を有するものではない。

(一) パイプを立方格子状に組み合わせるというのは、いわばジャングルジムの基本的形態であり、立方格子を十文字型や階段形状に組み合わせるのもありふれた形であって、ジャングルジムとして際立って特徴的かつ独創的なものではない。上から見て十文字型、横から見て階段状という原告商品の基本的形状自体が室内用ジャングルジムという商品の自他識別性を有するとはいえない。

(二) また、現在の市場状況をみても、原告主張の室内用ジャングルジムの商品形態自体が商品表示機能を獲得しているとは到底いえない。

(1) 現時点において、室内用ジャングルジム商品(すべり台付を含む。)は、次のとおり、原告及び被告を含む約一〇社から多種多様なものが販売されているが、これらの他社製品にも、上から見て十文字型、横から見て階段状という、原告商品と全く同一の基本的形態を有するものも多く、それ以外の商品も大方似たような形状をしている。

イ ジャングルジムにこにこぷん(株式会社オオサト)

ロ チビッコジム(株式会社トシマ)

ハ DO DOジム(株式会社パックエム、株式会社マンテン)

ニ DO DOジムスライダー(同右)

ホ DO DOジムスーパースライダー(同右)

ヘ アップルトークスクェア(エム・アンド・エム株式会社)

ト スクェアけろけうけろっぴ(同右)

チ スクェアフレンド(同右)

リ アンパンマンランド(株式会社アガツマ)

ヌ スーパーマリオワールド(くろがね工作所)

(2) すべり台付室内用ジャングルジムについては、原告がおすべりジムの製造販売を開始する前の平成元年一二月から、既にエム・アンド・エム株式会社がこれを製造販売していた。

(三) 室内用ジャングルジムは、多数の大人が反復継続して買うものではなく、ごく少数の大人が一生に一度程度しか買わないような商品であり、しかも、僅か一〇年程前から販売され始めたものであるから、原告が幾度かテレビで広告宣伝をしたからといって、一般消費者に対して、原告商品の商品形態が周知性を獲得することは到底ありえない。

(四) 仮に、原告商品の形態中に商品表示機能を有する部分があるとしても、他社製品と比較した場合の原告商品の特徴が、〈1〉紙管が緑色、ジョイント部が黄色であること、〈2〉各コーナー部のジョイントが横枠の紙管上部及び下部にそれぞれ約二センチメートル突出していることの二点であることを考慮すれば、商品表示機能を有する部分も右二点に限られるというべきである。

2  誤認・混同のおそれについて

(一) 原告商品と被告商品は、各自の商品を表示する商品名及び商品包装がそれぞれ異なるため、誤認混同を生じるおそれはない。

(二) 原告商品と被告商品は、次のとおり、商品形態のうち商品表示機能を有する部分にそれぞれ特徴があり、離隔的観察によっても色彩や形態が一見して相違しているため、誤認混同を生じるおそれはない。

(1) ジャングルジム本体部分の形態

原告のわんぱくジムが、〈1〉緑色の紙管及び黄色の合成樹脂ジョイントで構成され、〈2〉各コーナーのジョイントが横枠を構成する紙管の上部及び下部からそれぞれ約二センチメートル突出しているという特徴を有するのに対し、被告のカラージャングルは、〈1〉紙管が下段から上段に向けて青・緑・赤の三色に塗り分けられ、〈2〉ジョイント本体が紙管内部に嵌入されているため、各コーナーは上部下部とも突出がなく丸みを帯びており、〈3〉ジャングルジム頂部に、三角の切妻状屋根、時計、玉入れボード等が取り付けられており、〈4〉原告のものより一回り大きいという点に特徴がある。

(2) すべり台部分の形態

原告のおすべりジムのすべり台は、全体にピンク色で怪獣の首を模した形状を有し、すべり板と踊り場部分が一体となっているという特徴があるのに対し、被告の優遊ジャングルのすべり台は、黄色のすべり板の最上部に半円形の大きな赤色の把手が付けられており、これを簡単に取り外し出来るという特徴がある。

(三) 現在一般の市場においては、原告、被告を含めた約一〇社がデザインや価格面において室内用ジャングルジムの販売を競い合い、素材についても、最近では、紙管以外にプラスチックやアルミパイプが使用されるようになっている。各社の製品にはそれぞれ特徴があり、取次問屋はもちろんのこと、室内用ジャングルジムの一般的な需要者である親達も、店頭等で現物を慎重に比較したうえで購入しているのであるから、誤認混同のおそれはない。

因みに、価格も原告のおすべりジムは一万四八〇〇円であるのに対し、被告の優遊ジャングルは二万二〇〇〇円であって、被告は原告のものを真似して「安かろう、悪かろう」で売るような魂胆は全くない。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一  事実関係

一  原告商品の形態

組立後の原告商品の写真であることに争いのない甲第一号証の1ないし12、成立に争いのない甲第一〇号証、第一一号証、第一四号証によれば、次の事実が認められる。

1  わんぱくジム

(一) わんぱくジムは、表面に合成樹脂被膜を施した緑色の紙管を黄色の合成樹脂ジョイントにより接続し、A号品では三段、B号品及びC号品では四段の立方格子様に組み立てたものであり、組立後は、A号品が縦九九センチメートル、横九九センチメートル、高さ九一センチメートル、B号品が縦九九センチメートル、横九九センチメートル、高さ一二〇センチメートル、C号品では縦一六五センチメートル、横一六五センチメートル、高さ一二〇センチメートルとなる。

(二) A号品及びB号品は、別紙図面一の1、2記載のとおり、紙管一本分と合成樹脂ジョイントの半径二個分(以下便宜的に「紙管一本分」という。)を一辺とする正方形五個を十文字型に組み合わせた形状の底面を有し、高さ方向には、中央部の正方形を底面とする直方体が、他と比較して最も突出(A号品では三段、B号品では四段)している。中央部を挟む二対の直方体は、一対が中央部よりもそれぞれ一段、もう一対がそれぞれ二段低くなっているため、組立後のジャングルジム全体は、上から見ると十文字型、横から見ると階段状という形状を有している。

(三) C号品は、別紙図面一の3記載のとおり、紙管一本分を一辺とする正方形五個を直線様に連結した長方形二本を中央で十文字に組みあわせ、その中心部を紙管三本分を一辺とする正方形で囲んだ形状の底面を有し、高さ方向には、中心部の正方形を底面とする直方体だけが突出(四段)し、外側へ行くにつれて、一方の直方体では一段ずつ二回、他方の直方体では二段と一段順次低くなり、その余の部分は高さが一段のみとなっているため、組立後のジャングルジム全体は、上から見ると略十文字型、横から見ると階段状という形状を有している。

2  おすべりジム

おすべりジムは、ジャングルジム本体部分に当たるわんぱくジム(A号品)に、ブロー成型したプラスチック製のすべり台を組みあわせたものであって、すべり台部分は、すべり板の最上端と一体となった踊り場部分をジャングルジム本体一段目の水平格子上に載置し、他端を床に載置する形で取り付けられる。すべり台はピンク一色で、恐竜の形態を模しており、側面には恐竜の顔、足等が描かれている。

二  原告商品の販売

前掲甲第一〇号証、第一一号証、原告代表者本人尋問の結果によって原告商品のテレビ宣伝用CMの放映画面を撮影した写真であることが認められる甲第一二号証の1ないし7、原告商品の宣伝広告用のチラシ作成のために提供したネガフィルムのカラーコピーであることが認められる甲一三号証の1、2、証人西川照夫、同出口豊彦の各証言に原告代表者本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

1  原告は、玩具・室内遊戯具の製造販売、幼児向け書籍の出版を業とする株式会社であり、昭和五七年七月からわんぱくジムを、平成二年八月からおすべりジムを製造販売している。

2  原告がわんぱくジムの製造販売を開始した昭和五七年七月以前には、国内において、室内用ジャングルジムは、国産品、輸入品ともに市販されていなかった。

3  原告は、昭和五七年から、別紙「わんぱくジムに要した広告宣伝費」記載のとおりの広告宣伝費を投入して、フジテレビ系「ひらけ!ポンキッキ」をはじめとする全国の幼児向け番組にテレビCMを入れたり、主要育児誌に雑誌広告を掲載するなどして、一歳前後の幼児を持つ母親を対象とする広告宣伝活動を行ない、その際、テレビCM・雑誌広告には、わんぱくジム全シリーズの組立後の写真、映像を必ず使用した。わんぱくジムは、発売当初からの強力な広告宣伝活動もあって、発売開始の翌年(昭和五八年)には、最初の年の販売個数四万五八七六個の約二・八倍に当たる一二万九八五〇個まで販売実績を増大させ、以後、年間約一一万個から一三万個という販売実績を恒常的に維持するようになった。

原告は、おすべりジムが発売された平成二年以降も、年間約三〇〇〇万円の広告宣伝費を投入して、別紙1・2記載のとおり、全国一九局で放送される幼児向け番組に原告商品のテレビCMを放映し、国内の主要育児誌及びベビー誌六誌に雑誌広告を掲載してきた。

4  後記他社商品が市場に出てくるまでは原告が室内用ジャングルジム市場を独占していたことはもちろんであるが、多種の他社商品が市場に出てきている現在においても、原告商品は第一、二位の販売実績を有し、また、全国約一五〇店の取引問屋及び大手百貨店を含む約四〇〇〇店の取扱小売店で販売され、日本国内において広く流通されている。

5  原告商品の色彩は、発売当初は紙管が黄色、合成樹脂ジョイントが灰色に着色されていたが、昭和五九年九月以降紙管は緑色、合成樹脂ジョイントは黄色に着色が変更され、現在に至っている。

三  室内用ジャングルジム商品市場の推移等

前掲甲第一一号証、成立に争いのない甲第四ないし第九号証の各1、2、乙第三ないし第九号証、第一一号証、第一四号証、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第一〇号証、第一三号証、検乙第七号証、被告主張のとおりカタログから抜粋した写真であることは争いがなく、撮影者、撮影年月日は証人出口豊彦の証言によりこれを認めることができる検乙第一ないし第五号証、被写体、撮影者及び撮影年月日に争いがない検乙第一一、第一二号証の各1ないし4、証人西川照夫、同出口豊彦の各証言に当裁判所に顕著な事実を総合すると、次の事実が認められる。

1  ジャングルジムは、本来、木又は鉄の棒を縦横に組み合わせて作ったやぐら状の児童用運動具をいい、日本では、昭和初期から小学校、幼稚園、児童遊園地等に設置されているところ(平凡社・世界大百科事典一九七〇年版第一〇巻七一七ページ)、上から見て十文字型、横から見て階段状という原告商品の形態は、従前から公園等に設置されているジャングルジムの形態に照らし、それほど特色のあるものではない。

2  室内用ジャングルジムは、まだ充分に運動機能が発達していない幼児が安全に体を動かせるよう、従来は戸外に設置されていたジャングルジムを小型化軽量化した室内用遊具であり、本来のジャングルジムと異なり、床に固定することができないことから、使用時における転倒を避け、幼児が上に登るほど安定を良くするには、特別に支持手段を設けない限り、左右対称で、かつ、下部が大きく上部に行くほど段々小さくなっていくような形状を取る必要があり、そのためには、上から見て十文字型、横から見て階段状という基本的態様が最も適当であるから、原告商品もこの基本的態様を採用していることは明らかである。

3  原告商品は、幼児にとって鉄等の固い材料が危険であるのに対し、安全、軽量でかつ安価に販売できるという配慮から、紙管及び合成樹脂ジョイントで構成されているが、紙管で作られた子供向けの室内用遊具としては、原告商品の発売以前にも、紙管で箱組構造を作り、これにネット、紙管の梁棒をロープで吊した吊橋・吊はしご、紙管を枠材としたすべり台等の遊具を取り付けたアスレチック遊具(実公昭六〇-四七五五七)が存在していたのであり、原告商品の紙管及び合成樹脂ジョイントの構成にも格別の特色はない。なお、原告は、原告商品のわんぱくジムA号品を実施例として記載し、実用新案登録請求の範囲を「紙パイプとジョイントからなり、紙パイプは紙を多層に巻いて筒状に形成したパイプであって、その表面に合成樹脂皮膜が形成してあり、ジョイントは合成樹脂により形成し、その形状は前記紙パイプを嵌入し得る筒体と、その軸方向に対し直角方向に突出し、前記紙パイプの筒内に挿入し得る突出部とからなり、筒体内面中央部にはリブを形成し、且つ二本の突出部が九〇度の角度を形成するL字形ジョイントと、三本の突出部がそれぞれ九〇度の角度を形成するT字形ジョイントと、四本の突出部がそれぞれ九〇度の角度を形成する十字形ジョイントとからなることを特徴とする幼児用ジャングルジム。」とする実用新案登録の出願を原告商品の販売開始に先立つ昭和六二年四月二七日にしたが、右出願にかかる考案は、出願前国内において頒布された刊行物に記載された考案に基づいて、その出願前にその考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、きわめて容易に考案することができるものと認められるとの理由で、平成二年七月二五日付で拒絶査定されている。

4  室内用ジャングルジム市場は、昭和五七年七月にわんぱくジムが発売されてから数年間は、原告がこれを独占していたが、従来は戸外で使用されていた三輪車、ぶらんこ、すべり台等の遊具が次々と室内でも使用可能な形態に変更されて室内遊具に導入されている最近の時代の流れに従い、昭和六〇年に株式会社オオサトが原告商品と同様の合成樹脂被膜を施した着色の紙管と合成樹脂ジョイントの組合せからなる室内用ジャングルジムの製造発売を開始したのを皮切りに、昭和六二年九月には株式会社パックエム、エム・アンド・エム株式会社、株式会社マンテンの三社が次々に同様の室内用ジャングルジムの製造販売を開始し、昭和六三年にはエム・アンド・エム株式会社が初めてすべり台付きジャングルジムを製造発売するに至った。このすべり台付きジャングルジムが極めて好評で販売実績が上ったため、先ず株式会社マンテンが追随してすべり台付きジャングルジムの製造販売を開始し、続いて原告もエム・アンド・エム株式会社に一年半以上も遅れてすべり台付きジャングルジム(おすべりジム)の製造販売を開始し、他社もまたこれに追随した。

このような経過の後、室内用ジャングルジム市場の競合は、被告が被告商品の発売を開始した平成三年ころから特に激化し始め、平成四年秋の時点では、原告及び被告を含めて約一〇社の玩具業者及び乗物業者が室内用ジャングルジムを製造販売している。

5  原告は、平成三年六月、内容証明郵便により、被告をはじめ、室内用ジャングルジムの製造販売で競業している株式会社オオサト、株式会社パックエム、株式会社マンテン、エム・アンド・エム株式会社、株式会社アガツマに対し、本訴における原告主張と同旨の理由により、これら各社の製造販売する室内用ジャングルジムが原告との関係で不正競争防止法一条一項に違反するという趣旨の警告書を送付したが、右警告を受けた後現在までに室内用ジャングルジム市場から撤退した会社はない。

6  平成五年一月現在、大手玩具店や百貨店等の大型店の店頭では、室内用ジャングルジムの販売に当たり、原告商品及び被告商品を含む各社の製品のうち、少なくとも複数の人気商品を組立後の形で陳列しており、これらの店舗を訪れた需要者は、各社製品の具体的形状及び価格を比較検討して、自分の欲しい会社の商品を選択することが可能である。平成四年三月ころ発行の育児用品総合カタログ(株式会社エンドー)の室内遊具のページには、原告商品、被告商品のほか、エム・アンド・エム株式会社、株式会社マンテン、コンビ株式会社製の室内用ジャングルジムが概ね同じ大きさで掲載されており、消費者が各社製品を比較検討することができるようになっている。

7  競業各社の製造販売している室内用ジャングルジム(すべり台付きを含む。)は多種に及ぶが、その本体の基本的形状自体は、三段組、四段組ともに、ほとんどが上から見て十文字型、横から見て階段状という態様であり、すべり台の大きさ、取付位置、傾斜角度などもほとんど同一であり、基本的形状においてはいずれも際立った差異、特色はない。また、右競合商品の大部分は、原告及び被告商品と同様、ジャングルジム本体は合成樹脂皮膜及び着色を施した紙管と合成樹脂ジョイントで構成されており、この点においてもいずれも際立った差異、特色はない。

したがって、室内用ジャングルジムを製造販売する競業各社は、ジャングルジム本体を構成するパイプ、ジョイント及びすべり台の配色の好感度、旗・屋根など附属品の有無及びそのデザイン、これらに人気キャラクターを付する等、主として対象の幼児や親に魅力を感じさせる美観に関する点、合成樹脂ジョイントが上部や下部で突出しているため幼児の衣服や手足が引っかかりやすい構成になっていないか、すべり台部分を取り外しても使用できるか、すべり台のすべり板がすべりやすいか、使用対象幼児に適当な大きさか等、主として実際使用上の利便に関する点並びに購入しやすい価格が設定されているかの点などに、それぞれ特徴を持たせて販売競争を繰り広げており、需要者は、通常購入に際してこれら各社の商品の現物を見分するかカタログで見分するかして、右の諸点を検討のうえ各社の商品を十分識別して購入商品を選択決定している。

第二  判断

商品の形態は、第一次的には、その商品の目的とする実質的機能をよりよく発揮させ、あるいは美的効果を高めるという見地から選択されるものであり、その商品の出所を表示することを目的とするものではないが、その形態が極めて特殊かつ独自なものであるか、その形態が特定の商品形態として長年継続的かつ独占的に使用されてきたり、形態自体が強力に宣伝されたりすることにより、その形態自体が第二次的に出所表示の機能を有するに至った場合には、これをもって、不正競争防止法一条一項一号にいう「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」とみて妨げないと解すべきである。

原告は、合成樹脂被膜及び着色を施した紙管と樹脂ジョイントからなる室内用ジャングルジムであり、上から見て十文字型、横から見て階段状になっているという、原告のわんぱくジムの商品形態自体が、原告の商品であることを示す表示として日本国内の消費者、問屋等の需要者の間で周知性を獲得した旨主張する。しかしながら、前記認定事実によれば、原告は国内で初めて室内用ジャングルジムの製造販売を開始し、室内用ジャングルジム市場を開拓した功労者であること、原告は、わんぱくジムの発売以来現在まで約一二年間にわたり、他社と比較して際立って広範多量な宣伝活動を行なっていること、原告商品は、室内用ジャングルジム市場において競合商品が出てくるまでは市場を独占し、その後も第一、二位のマーケットシェアを占め、多数の問屋・小売店を通じて全国的に流通されていることが認められるけれども、他方、原告が商品表示性を取得したと主張する、わんぱくジムの基本的形状である上から見て十文字型、横から見て階段状という形態は、従来から戸外に設置されてきたジャングルジムに照らし特に独創的ではなく、室内用ジャングルジムという幼児の室内用遊具という商品の目的からの機能的必要性に由来することが明らかであると考えられること、室内用遊具の素材として紙管及び合成樹脂ジョイントを用いた点についても、公知公用の先例があり、原告独自の工夫とはいえないこと、戸外の遊具が小型化軽量化されて幼児用の室内遊具として導入されているのが最近の時代の流れであること、室内用ジャングルジム市場は、現在では約一〇社が各自デザイン面で競合するという成熟段階に入っており、原告が商品表示性を取得したと主張する、前記原告商品の基本的形状及び構成自体は各社商品とも酷似しており、現状においてはそれが自他商品の識別力を有してはいないと考えられること、需要者である一般消費者は、テレビCM・雑誌広告以外にも、店頭での陳列や商品ヵタログにより、原告商品以外の多種類の被告商品及び他社商品があることを知ることができ、競合する数社の商品の特徴を比較検討したうえで商品を選択することができる状況にあり、また現実にそのようにして商品を選択していることが認められるから、結局、本件全証拠によっても、原告主張の前記わんぱくジムの商品形態が、不正競争防止法一条一項一号にいう商品表示としての機能を獲得しているものとも、また、そうした表示として周知性を取得しているものとも認めることはできない。また、おすべりジムについても、本体部分の右商品形態が周知性を取得していると認められないことに加え、その発売開始以前に、他社から室内用ジャングルジムにすべり台を組み合わせた複合商品が発売されていたという事情を考慮すれば、その商品形態が原告の商品表示としての機能を獲得しているとは到底認めることができない。

そうすると、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。

以上の次第で、原告の本訴請求には理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 小澤一郎 裁判官 阿多麻子)

第一目録

長さ二八〇ミリメートル、外径三一ミリメートル、内径二五ミリメートルの、合成樹脂皮膜と着色を施した紙管と、合成樹脂によるジョイントを組み合わせた、添付図面一の1ないし3に示すような形状を有する室内用ジャングルジム。

図面一の1

〈省略〉

図面一の2

〈省略〉

図面一の3

〈省略〉

第二目録

長さ二八〇ミリメートル、外径三一ミリメートル、内径二五ミリメートルの、合成樹脂皮膜と着色を施した紙管と、合成樹脂によるジョイントを組み合わせた、室内用ジャングルジムに、ブロー成型によるすべり台を取り付けた、添付図面二に示すような形状を有する室内用ジャングルジム。

図面二

〈省略〉

第三目録

長さ三〇〇ミリメートル、外径三一ミリメートル、内径二五ミリメートルの、合成樹脂皮膜と着色を施した紙管と、合成樹脂によるジョイントを組み合わせた、添付図面三の1ないし3に示すような形状を有する室内用ジャングルジム。

図面三の1

〈省略〉

図面三の2

〈省略〉

図面三の3

〈省略〉

第四目録

長さ三〇〇ミリメートル、外径三一ミリメートル、内径二五ミリメートルの、合成樹脂皮膜と着色を施した紙管と、合成樹脂によるジョイントを組み合わせた、室内用ジャングルジムに、ブロー成型によるすべり台を取り付けた、添付図面四の1、2に示すような形状を有する室内用ジャングルジム。

図面四の1

〈省略〉

図面四の2

〈省略〉

別紙

年号 わんぱくジムに要した広告宣伝費(単位:千円)

昭和57年 18,283

昭和58年 80,679

昭和59年 78,460

昭和60年 67,978

昭和61年 35,610

昭和62年 67,749

昭和63年 52,177

平成1年 23,765

平成2年 34,926

平成3年 30,376

平成4年(10月まで) 14,564

合計 504,567

別紙1

最近4年間のテレビにおける原告商品に関するCFオンエア状況(単位;本)

〈省略〉

注:「本」とは原告商品の広告を本編とするものをいい、「下」とは原告の他の商品のコマーシャルの最後に、いわゆるぶら下がりとして原告商品の広告も行なう場合をいう。

別紙2

最近3年間の雑誌(月刊誌)における原告商品に関する広告の出稿量

〈省略〉

○は広告を掲載したことを示す。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例